結局冬用シュラフは何が良いんだろうか、という話。

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冬用シュラフに困る方は多いように思う。

アウトドア用品店で店頭に立っていても、この時期冬用シュラフのお悩みは1日に3回は間違いなく聞く。

皆様のお悩みとしてはまとめると以下のようなものだ。

  • 寒がりに合う冬用シュラフは何?
  • 暑がりだから3シーズンシュラフと夏用シュラフを重ねて使えば冬用シュラフは不要?
  • 冬用シュラフは高すぎる。安いものでおすすめはあるか?

どれもとても聞くお悩みだ。そして痛いほど分かるお悩みでもある。

これまで真冬、厳冬期のキャンプは人生で300回は間違いなくしている私が、そんな皆様のお悩みを解消しようと思う。

そもそもシュラフが温かい理由

「デッドエアー」という言葉をご存知だろうか。

少々不吉な感もあるが、直訳すると「死んだ空気」ということだ。

そもそも寒くなるという理由は、熱力学的には「熱は寒い方に移動する」からだ。

結果的に熱は放出されてしまうため、寒さを感じる。

(同じ理由で地面からの放熱もバカにできない。シュラフマット選びは極めて重要だ)

シュラフマットについてまとめた記事はこちら

さて、放熱されないためにはどうすれば良いか?答えは「熱源である自分と、寒い外気の間を仕切る壁を作る」のが一番良い。

そもそも人類は古来から動物の毛皮等を利用することで寒さを凌いできた。そして1930年代の欧米ではすでにグース、ダック等の水鳥の羽毛を詰めたものが、動物の毛皮以上に断熱性があることに気づいていたようだ。

この断熱性が高い理由こそがデッドエアーである。

デッドエアーとは、寒い外気と熱源である自分の間に細かい隔壁のようなものを作り、その隔壁の中に空気を閉じ込めることで放熱を極端に遅らせることができる、というものだ。この隔壁として利用されるのが水鳥の羽毛(英語でダウンと言う)、グースやダックなのである。

余談であるが、近年ではこのダウンに似せた化学繊維も増えている。

グースダウンとダックダウンの特徴

実はグースとダックはその羽毛が取れる生き物から違う(英語が分かればすぐに分かることではあるが…)。

グースとはガチョウのことで、水鳥の中でも大きい生物だ。必然取れる羽毛も一つ一つが大きく、ダックダウンよりも保温力が高い。ただし生育・加工の手間等からダックよりも高い。

ダックとはアヒルのことで、水鳥の中でも小柄だ。生育・加工の手間がグースよりは掛からないため、ダウンの中では安価な部類になる。ただし保温力についてはグースの方が高いため、メインシュラフとして利用するならなるべくグースダウンを選んでいきたいところだ。

ダウンの弱点

実はダウンは水に非常に弱い。

水鳥なのに水に弱いとは何事だ、と思うかもしれないが、実はシュラフに使われるダウンはガチョウやアヒルの羽毛の肌に近い部分の毛のみである。

ガチョウやアヒルの外側の毛が水を弾き、内部の肌に近い毛で保温する、という構造になっている。

・・・ということで基本的にダウンが水に弱いということにご納得いただきたいのだが、冬用シュラフを選ぶ際、水についてはしっかりと考える必要がある。

冬季にキャンプを行う場合、テントの内外の温度差がかなり発生し、テントの内壁が人間の呼気が水蒸気となってびしょ濡れになってしまうのだ。

大体のテントは縦が200cm前後であり、シュラフは180cm前後が一般的だ。結果的に内壁との距離が上下方向に10cm程度くらいしかなく、テントの内壁の構造上どうしてもシュラフとテント内壁が接触してしまうことがある。

シュラフとテント内壁が接触すると、テント内壁の水分がシュラフに浸食しだしてしまい、結果的にダウンの保温力が失われ、朝方に寒くて目を覚ますことがある。

近年ではダウン自体に撥水加工を施したり、シュラフの生地に撥水加工を施したダウンシュラフがほとんどであるが、それでもシュラフは水に弱い、ということは覚えておいた方が良いだろう。

化学繊維の特徴

上記で説明したダウンの欠点を克服したものが化学繊維だ。

化学繊維はポリエステル系の合成繊維で作られるたものであり、断熱性について考えられているものだ。

これら化学繊維のシュラフは天然素材であるダウンとは異なり、水に強いという特徴を持つ。

反面、ダウンと比べると嵩張り、重くなってしまうというデメリットも存在する。

ここ10年程度で繊維技術は目覚ましい進歩を遂げているため、将来的には天然物であるダウンを超える品質になる可能性もあるが、現状では保温力という点ではダウンの方が上だ。

シュラフのスペックについて

冬用シュラフを選ぶ際に特に気にしておきたいのが、「快適使用温度」、「下限温度」、ダウンの質の3つだ。

実際に2つほどの冬用シュラフを見ながら確認してみよう。

例えば上記の「NANGA オーロラLight 600DX」の場合のスペックは以下の通りだ。

■快適使用温度-4℃/下限温度-11℃

■スパニッシュダックダウン90-10% (760FP)

■快適使用温度-10℃/下限温度-18℃

■800FP 撥水加工済ダウン(RDS認証、PFCフリー)790g

・・・とこのように基本的にはどのシュラフも快適使用温度、下限温度、シュラフの質については記載されている。

この意味が分かるようになることで、冬用シュラフの選び方に無駄が無くなる。

①快適使用温度とは

快適使用温度とは、一般的な成人女性が寒さを感じることなく寝ることができる温度域とされる。

これは一般的に女性は男性よりも寒さを感じやすいという理由からだ。

以上のことから簡単に言うと、「メーカーが想定した、その国の使用者の体格、性別に関わらず寒い思いをせずに睡眠を取ることが出来る外気温の最低温度」ということである。

例えば、快適使用温度が-10℃である場合、「-10℃までの外気温であれば、基本的にはどのような体格、性別の人であっても快適に寝れる」ということである。

無論、-10℃まで大丈夫だからと言って外気温が30℃以上の熱帯夜に利用した場合は非常に暑苦しいので、そこは注意されたい。

個人的な感覚としては、快適使用温度が-10℃の場合、外気温0℃~-10℃までの温度帯で利用すると良いように思う。(だいたい快適使用温度の+10℃くらいからなら普通に使える)

②下限温度とは

シュラフにおける下限温度とは、メーカーが想定した、その国の一般的な成人男性が寝袋の中で丸くなり、8時間寝られる温度域とされる。

外気温がそのシュラフに設定されている下限温度付近である場合、女性の使用は控えた方がよく、男性の使用に至っても多少体格の影響が出てくる温度帯だ。

③ダウンの質を表すフィルパワー(FP)

フィルパワーとは、羽毛の嵩の高さを示す指標である。

同じダウン量であっても300FP、450FP、600FPでは600FPの方が嵩が高くなる。

デサント公式HPより

同じダウン量でも嵩が高くなるということは、それほどダウンの中にデッドエアーを溜め込む事ができる、ということである。

フィルパワーとは保温力等を示すものではないが、このフィルパワーを確認することでそのダウンがどれほどのデッドエアーを蓄えることが出来るのかが分かるようになる。

基本的にはフィルパワーがより高いものを買っておくことが望ましいが、フィルパワーが高くなればなるほど値段も高くなる。コストと利用する際の外気温のバランスで考えることが肝要だ。

【重要】ヨーロピアンノーム

さて、誤解を恐れずに言うと上記に記載した快適使用温度や下限温度というものは実はメーカーが勝手に定義した温度である。無論各メーカー毎に厳格な算定基準はあるが、その基準がメーカー毎にバラバラであり、結果的に快適使用温度の記載通りの外気温で使っても寒かった、ということが起こるのだ。

たとえばイギリスのシュラフメーカーで快適使用温度が-5℃となっていても日本人には寒すぎて使い物にならない。せいぜい外気温10℃前後でしか使えない、というようなことが起こるのだ。

これは寝る時の服装の違い、人種の違い(ヨーロッパ人は寒さに強い)等の算定基準が各メーカー毎にバラバラであるが故に起こることであり、世界展開を目指す各国のシュラフメーカーとしても悩みの種になっていた。

そこで提唱されたのが「ヨーロピアンノーム」、早い話がシュラフ業界全体での統一算定基準である。

このヨーロピアンノームは名前の通り、EU諸国における統一規格として制定されている規格の総称で、ヨーロピアン・スタンダードとも呼ばれる。

スリーピングバックに関する温度表記についてはEN13537(英語、外部リンク)で算出が定義されている。

検査は認定された第三者機関が行う公平なもので、各メーカーの独自基準に基づく使用温度表示とは一線を画すものといえる。

このヨーロピアンノームが大変便利であるため、EU諸国のみならず、日本のシュラフメーカーもヨーロピアンノームを採用し、表記することが増えてきた。

ヨーロピアンノームの表記については以下の通りになっており、基本的にはシュラフに直接ラベルで貼られていたり、印刷されていたりする。

NANGA 公式HPより

おすすめの冬用シュラフについて

冬用シュラフとしておすすめできるものを用途別に挙げてみよう。

キャンプ(標高700M以下のキャンプ場かつ車移動)

車移動であればある程度重量や嵩張りについては無視出来るため、冬用シュラフとしても安価なものを利用出来る。

なんとお値段は脅威の6,000円台。ちなみにコストコに行くと時々5,000円台で安売りされている。

このシュラフ、安かろう悪かろうの製品ではない。私も実際真冬(外気温-7℃)の時にこのシュラフで寝たことがあるが、特に問題なく熟睡することができた。

ちなみに付属品のスタッフサックに収納するのは非常に骨が折れる。

私は面倒臭くて付属品のスタッフサックは捨てた。

細かいスペック表記はないが-18℃が下限温度らしい。スペックが判然としないが、比較的標高が高くないキャンプ場であれば十分に使用に足りるのでおすすめだ。

キャンプ(標高700M以上のキャンプ場かつ車移動)

カリンシアというメーカーをご存知だろうか。

オーストリアに本社を置く寝具メーカーなのだが、実は軍向けのシュラフ製造ではトップシェアを誇るブランドだ(イギリス王室御用達のSnagpakよりもシェアは上)。

このシュラフは非常に肌触りがよく、また独自開発したプレミアム合成繊維断熱材である「G-LOFT®」というものが非常に優秀だ。

ちなみに私も所有しているが歴代最強に温かいシュラフだ。ダウンシュラフよりも暖かいかもしれない。それほどまでに暖かいのだ。

欠点はダウンシュラフと比べると嵩張る点。ここは化学繊維の宿命であるため我慢したいところ。

むしろ定期的に洗濯機で洗えることから、個人的にはこのシュラフをおすすめしておきたい。

●適応シーズン温度(EN13537): 快適温度:-8.8度  下限温度:-18度  極限温度:-40度
●素材:中綿:G-LOFT®

低山登山

変な形だと思うかもしれない。でもこの形にはとんでもないメリットがある。

この形状を「スプーンシェイプ」と言うのだが、この形のおかげで簡単にあぐらが掛けるのだ。

登山でのテント泊となると、基本的には小さめのテントの中でうまくスペースをやりくりしながら寝食を行うわけだが、外気温が低い中でシュラフに包まってあぐらをかきながら飲食が出来、そのまま即寝れるというのがこのシュラフの良いところだ。

個人的にはダウンシュラフであればNEMOのスプーンシェイプを使いたい(というか現役で使っている)。

欠点としてはシュラフ内部の空間が一般的なマミーシュラフよりも大きいため、寒さに弱い方が使う分には若干の不安がある、ということくらいか。

●適応シーズン温度(EN13537): 快適温度:-4度  下限温度:-10度
●素材:650FP 撥水加工済ダウン (RDS認証、PFCフリー) 625g

高山での縦走登山

そもそもシュラフをケチるくらいなら冬季登山をしてはならない。

日本の山くらい楽勝だと思って軽装で冬季登山を行う方々を見るにつけ、個人的には非常に憂慮していることでもある。

冬の山は怖い。縦走であればその怖さはマックスだ。夏場でも普通に遭難する高山で、冬季に遭難したらどうなるだろうか?まず凍死の可能性が高い。

そんなことも考慮して冬季登山は楽しく行ってほしいと私は心の底から思う。

遭難した場合、テントは建てられない可能性が高い。自身の体温を保つ上でも体が動くならまずはシュラフに包まってほしい。そういった極限状態で少しでも生存確率を上げてくれそうな最強シュラフがこのNANGA LEVEL8シリーズだ。

●適応シーズン温度(EN13537): 快適温度:-13度  下限温度:-23度
●素材:スペイン産ダックダウン90-10% (770FP) 超撥水加工 1,000g 

まとめ

ここで冒頭のお悩みについて回答したいと思う。

Q:寒がりに合う冬用シュラフは何?

A:車移動出来るのであれば、化学繊維のものでも大丈夫。ただし快適睡眠温度が冬キャンプする際の外気温よりも低いものを選んだ方が良い。

Q:暑がりだから3シーズンシュラフと夏用シュラフを重ねて使えば冬用シュラフは不要?

A:たしかに昔からシュラフの2枚重ねは多用される知恵だ。シュラフを重ねることで、そのシュラフの間にもデッドエアーは出来るかもしれない。しかし一般的には自己責任としか言いようがなく、アウトドア店員の身としては冬用シュラフを購入されることをおすすめしたい。

Q:冬用シュラフは高すぎる。安いものでおすすめはあるか?

A:キャンプで車移動であれば6,000円台で購入出来るシュラフもあるのでそちらの購入をおすすめしたい。6,000円も出せないといことであれば、冬キャンプはおすすめできない。

徐々に秋が深まり冬の気配も感じる今日だが、冬用シュラフについて解説してみた。

上記で紹介したシュラフについてはすべて私が所有しているものと同型なので、性能についてはある程度担保が出来るものを取り揃えてみた。

そのうちそれぞれのシュラフの詳細なレビュー記事も書こうと思うので、楽しみに待っていただけると幸いだ。

最後になるが秋・冬キャンプの危険性やおすすめの季節性アイテムについては以下に記載したので、よければご確認頂きたい。

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